神戸家庭裁判所 平成6年(家)1034号 審判 1994年7月27日
申述人 甲野花子
被相続人 A
主文
申述人からの、被相続人Aの相続を放棄する旨の申述を受理する。
理由
1 申述人は、当裁判所に対し、平成6年5月19日主文記載の申述をなした。一件記録並びに審問の結果によると、次の事実が明らかである。
(1) 申述人とインド国籍を有する被相続人Aは昭和38年×月×日神戸市内の神戸YMCA礼拝堂で結婚式を挙げ、昭和39年×月×日神戸市○○区長に婚姻届をするとともに、同年同月××日神戸インド領事館で結婚式を挙げ同日同領事館に婚姻の届け出をした。
(2) 申述人と被相続人は結婚した時から被相続人が死亡するまで申述人の現在の住所地(当時の住居表示は神戸市○○区○○×丁目×-×である)で居住していた。
(3) 被相続人は、平成6年4月28日死亡した。被相続人の最後の住所は申述人の住所と同じである。
(4)被相続人は、遅くとも昭和36年ころから神戸市内に居住し、大阪市内で貿易商を個人で営んでいた。そのため、被相続人はインド国内には財産は一切なく、日本国内には最後の住所に家財道具と銀行貯金約30万円、債権140万円があり、一方債務(債権者はいずれも日本の金融機関)は約3,500万円である。
2 本件は渉外事件であるから、手続要件について検討する。
(1) 裁判管轄
被相続人の最後の住所地が神戸市であるから、本件相続放棄申述についてはわが国に裁判管轄があり(家事審判規則99条)、当裁判所の管轄に属する。
(2) 準拠法とその適用
法例26条により相続は被相続人の本国法によるが、被相続人の本国であるインドは統一的な家族法がなく、人的に法律を異にして複数の相続法がありどの相続法を適用するかは、その先決問題として被相続人と申述人の婚姻の準拠法が問題となる。婚姻の成立要件は各当事者につき本国法によってこれを定める(法例13条1項)が、インドは婚姻についても、人的に法律を異にして複数の婚姻法があり、被相続人はヒンズー教徒ではあるが、申述人と日本国内の教会で結婚式を挙げるとともに、インド領事館でも結婚式を挙げ同領事館に婚姻届をしており、被相続人らの婚姻は「特別婚姻法(Special Marriage Act 1954)」の民事婚であることは明らかであり、同法が適用される(法例31条1項)。そして被相続人の相続に関しては、同法21条により「インド相続法(Indian Succession Act 1925)」が適用される。ところで、被相続人の相続財産は日本国内に所在する動産及び銀行貯金並びに債権で、不動産を含んでおらず、「インド相続法」では動産相続については、被相続人の死亡時の住所地があった国の法律による(同法5条2項、法例32条)のでわが国の民法が相続準拠法となる。
3 そこで、わが国の民法に従って検討するに、前認定の事実によれば、本件相続放棄の申述はその要件に欠けるところはなく、受理するのが相当であり、主文のとおり審判する。
(家事審判官 村地勉)